東京高等裁判所 昭和30年(う)2758号 判決
被告人 君島保
〔抄 録〕
第二、被告人阿久津安二関係
一、弁護人Aの論旨第一点について。
所論は、「原裁判所は被告人君島保の口述書を証拠調しているが、右は伝聞事項の記述であり、それ自体証拠能力がないばかりでなく、右書面には任意性がなく、また作成者の署名、指印の正確性についても正規の認証がないから刑事訴訟法第三二二条第一項にも該当しないものである。かように一見して証拠能力のないことが明白である書証を証拠調するのは仮令それを証拠に採用しなくても心証形成に影響があるから違法である。」というのである。そこで記録を調査すると、原審第六囘公判期日において、検察官が所論指摘にかかる君島保の口述書を提出したことが認められるが、同公判廷における被告人君島保の供述によるとその書面は同被告人が任意に作成したものであつて、その署名指印も同人自身のものに相違なく、その文面は「私しがリウチ場中で高橋佐吉に話された事を申上ますゴンクリ橋所で話あつた事をしらべの時にさべると共はんになつでしまうからぜつたいに話すなとゆはれた事がありますから本当の事を申上られませんでした」とあり、要するに「留置場の中で相被告人高橋佐吉から、コンクリート橋のところで話合つたことを述べると共犯になつてしまうから絶対にいうなといわれたことがあるので本当のことが述べられなかつた」という趣旨であるから、それはいわゆる伝聞事項には該当しないし、またそれは被告人君島が犯行を共謀したことがある旨を自認しているものであるから同被告人にとつて不利益な事実の承認を内容としているものであることが明らかである。してみれば右書面は、同被告人に対する関係においては刑事訴訟法第三二二条所定の要件を具備した書面であるということができるから、これを同被告人に対する関係において証拠調をした原裁判所の措置は適法である。しかも記録を調査すると、原裁判所は右書面については被告人君島保に対する関係においてのみ証拠調をし、他の被告人に対する関係においては証拠調をしなかつたことが認められ、また原判決は同書面を全然証拠に採用していないことが明らかであるから、原裁判所が右書面の証拠調をしたこと自体は、被告人君島保以外の被告人にとつては直接関係のないことがらであるというべく、従つて仮に前記口述書なるものが、所論のように証拠能力を有しないものであるとしても、これが証拠調をしたこと自体は被告人阿久津の関係において、すこしも訴訟手続に違背があるとはいえない。本論旨も理由がない。
(花輪 山本 下関)